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【科学でいじめを解決「10秒以内に約6割のいじめが止まる?」キーパーソンは“傍観者”  いじめはダメ!絶対に!!】

科学でいじめを解決「10秒以内に約6割のいじめが止まる?」キーパーソンは“傍観者”
2020年度、全国の小中高校で認知されたいじめの件数は、新型コロナの影響もあり「減少」したものの、日本の教育現場では未だいじめの抜本的な解決方法は見い出せていない。いじめの被害者も加害者も生まない世界を作るため、「科学」を武器に、ある一人の研究者が立ち上がった。

■いじめを「科学」で解決

公益社団法人子どもの発達科学研究所 和久田学さん
和久田学さん。静岡県浜松市に拠点を置く「公益社団法人子どもの発達科学研究所」の主席研究員。20年以上特別支援の教師として学校現場に携わった後、現在はいじめや不登校など、子どもたちの脳の機能や発達、環境などに着目した研究を行っている。

ただこちらの研究所、一風変わった特徴が・・・

和久田学さん:
こだわりは「科学」になります。まだまだ教育現場では、教師の「思い」や「経験則」などで指導がされている。そこに「科学を入れていきましょう」というのが研究所の一番大事にしているところです。

教師の思いや経験則ではなく、科学的根拠に基づいた支援や指導は、再現性が高く汎用化しやすいと話す。さらに、和久田さんは現在の日本のいじめ対応には問題があるという。

和久田さん:
「いじめを早期発見しましょう」「SOSが出せるようにしましょう」これって全部いじめがあること前提のアプローチになります。言い換えれば問題が起きるまで何もされない。そこから脱却しなくてはいけない。だから我々は、科学的根拠を用いていじめを予防することを目指しています。

日本は「いじめを見つける」ことばかりに注力されていると指摘。いじめが起きにくい環境を整えることがいまの日本の学校現場には必要だという。

■10秒で約6割のいじめが止まる? キーパーソンは“傍観者”

「科学の力」で本当にいじめを予防することはできるのだろうか?

和久田さんは、2001年に発表されたD・リン・ホーキンス氏らの論文を紹介してくれた。この論文は、カナダ・トロントの2つの小学校にカメラを設置し、「いじめにおける傍観者の介入」について長期間自然観察した研究である。

そこに書いてあったのは・・・
「傍観者」がいじめを止める行動を起こすと約6割のいじめが10秒以内に止まる。

いじめと聞くと「被害者」「加害者」にスポットがあてられがちだが、いじめを防ぐうえで重要な役割を果たすのは「傍観者」だと和久田さんは話す。

D・リン・ホーキンス氏らの論文「いじめにおける傍観者の介入」
和久田さん:
悪いことだと分かっていても、例えば「みんなもやっていたから」「遊びだと思っていた」など、自分の行動がいじめだと理解していないケースがある。これらすべてを「シンキングエラー」といって、「考え方の間違い」が起きている。さらに、喧嘩やもめ事が起きた時、解決するスキルがない子どももいる。だからこそ傍観者を含めた全ての子供たちに知識やスキルを提供する必要があると思っている。

■いじめの予防授業 「トリプルチェンジ」とは?

大阪府吹田市の小学校 いじめの予防授業/2021年
“傍観者が変われば、いじめは防ぐことができる”
和久田さんの想いは、一つの教材となって、全国的な広がりを見せている。

大阪府吹田市にある公立の小学校。行われているのは「いじめの予防授業」だ。吹田市では、2020年度から公立のすべての小中学校(計54校)で、和久田さんらが作成した教材「トリプルチェンジ」が使われている。

トリプルチェンジの教材
トリプルチェンジとは、いじめが起きにくい学校を創るために、3つの変化を子どもたちと一緒に起こしていこうとするものだ。1つ目は、間違った考え方や思い込みを正しい知識に変える「考え方を変える」。2つ目は、いじめに直面した時どう対応したらいいのか考え実行する「行動を変える」。3つ目は、全ての人にとって居心地の良い集団を作る「集団を変える」。

それぞれを具体的に見ていくと・・・

▼ファーストチェンジでは「考え方を変える」
「他の子もやっていたから」「これくらいなら傷つかないだろう」など加害者が間違った考え方や思い込みをしていることを「シンキングエラー」という。いじめとは何か、知識を身に着け、これまでの言動を振り返り、「考え方を変える」授業。

▼セカンドチェンジでは「行動を変える」
いじめにあった時あるいは「傍観者」としていじめかもしれない状況を見た時、どんな行動がとれるのかを考える。ここで思い出してほしいのは先ほど紹介した論文、
「“傍観者”が、いじめを止める行動を起こすと約6割のいじめが10秒以内に止まる」だ。
つまり、いじめは「傍観者」の行動に弱い。知識があっても実行できないことを防ぐため、この授業では「行動を変える」ことに焦点があてられる。

▼サードチェンジでは「集団を変える」
全ての人にとって居心地の良い集団とはどんな集団だろう。「ひとりぼっちを作らない」「友達が困っていたら声をかけて助ける」など、個人レベルではなく、いじめのない「集団へと変わっていく」授業。

■実際に自分ができる行動を
今回吹田市の学校で行われたのは、「セカンドチェンジ」の行動を変える授業だ。子どもたちにとって、よりリアルで身近なシチュエーションを提示することで、自分ができる行動をイメージさせる。

先生:
今日のシナリオを読んでいきます。

“休み時間、あなたはドッジボールをしていました。
あなたはドッジボールが得意ではないので、うまくボールをよけられず、Aさんと体がぶつかってしまいました。
その時ボールがAさんに当たってしまいます。
Aさんは「へたくそ、お前のせいで俺が当たってしまったじゃないか」とあなたを責めました。
次の日から、Aさんは教室であなたを悪くいうようになりました。
あなたが「何でそういうことをいうの?」と聞いたら、
Aさんは「ドッジの時のことが理由だ」といいます。
あなたが「ごめんね」といっても許してくれません。
他の友達に相談したところ、「Aさんが許してくれないなら仕方がない」と、いわれてしまいました。あなたならどうしますか?”

もし皆さんが「あなた(被害者)」だったら、あるいは「傍観者」だったら、どんな行動ができますか?

グループディスカッションをする児童ら
まず1人で考える時間を設け、その後4人から5人程度のグループで集まり、意見を伝えあった。

女子児童:
(被害者だったら)自分が傷ついていることと、やめて欲しいってことをAさんに言うかな。

男子児童:
(傍観者だったら)一緒にどうしたらいいかを考えてあげるのがいいかなって思う。あと(被害者の)相談を聞いてあげるとかかな。

女子児童:
でも、もしかしたら、Aさんともっと仲が悪くなってしまうかもしれないから、やっぱり先生とかに言ってもいいかな。

グループディスカッションでは、直接相手に思いを伝えると答えた児童や、関係悪化を懸念して先生に相談すると答えた児童など、様々な回答が飛び交った。回答に違いがあることは当然で、今回の授業で重要なことは、模範解答のような正解を出し合うのではなく、実際に自分ができる行動を考えて、実行に移すことにある。

■いじめの予防授業を振り返って

ーー授業で大事だと思ったことは何ですか?

男子児童:
自分が「傍観者」の時でも、行動を起こすことはできるんだと学んだ。だからいじめかも知れない状況を見つけたらすぐ行動できるようにしたいなと思っています。気楽になれるような言葉とか、被害者の立場にたって考えてあげるとかができたらいいなと思っています。

ーー今日の授業を振り返ってどうですか?

いじめ予防授業を行った教諭:
2020年からトリプルチェンジの授業をやってきて、知識として覚えている子は増えてきたが、「実際に行動できたか?」と聞くと半分の子どもしか手が挙がらなかった。今回は、なんでできなかったのかを考えさせることに重きを置いた。考えるだけでなく「行動を変える」ことにつなげていきたいです。

ーー学校の雰囲気に変化はありますか?

いじめ予防授業を行った教諭:
雰囲気的なところは、去年から比べると優しい言葉がけをしてくれる子が増えたなと思います。困っている子がいたら助けようとしたり、大丈夫だよって温かい言葉をかけたりする子どもが増えました。

■いじめ問題って結局「大人問題」
和久田さんは「いじめ」とは学校や教師だけが向き合う問題ではないと話す。

和久田さん:
「いじめの加害者には“モデルがいる”」と言われています。子どもはいじめ加害行動をどこかで学ぶんです。子どもの周りにいる大人たちは「子どもに見られている」っていうことです。やっぱり僕はいろいろ研究をしていくと、いじめ問題って結局「大人の問題」ではないかと思うんです。大人たちの世界で、ハラスメントやDVがなくなっていけば、子どもたちも、こうやって解決すればいいんだって、こんな風に人を大事にしなきゃいけないんだって学ぶことができる。大人たち自身が変わることが一つ、大事なことだと思います。

子どもたちは大人の言動を見て学ぶ。「いじめ」について知らなければいけないのは、子ども以上に大人なのかもしれない。

▼公益社団法人子どもの発達科学研究所:
静岡県浜松市に拠点を置き、科学的な根拠に基づいた「子どもの発達と環境」に関する支援プログラムの普及と啓発活動を行っている。研究所では、いじめと学校風土の関連を可視化する「学校風土いじめ調査」、いじめ予防プログラム「トリプルチェンジ」等を開発。全国の多くの学校を対象に、エビデンスに基づく実践的ないじめ予防と効果的な介入ができるよう支援を続けている。

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